表彰・制裁Q&A−懲戒権の有効要件−
Q 従業員同士が社内で喧嘩をし、一人が軽い怪我を負ってしまいました。非は明らか
に怪我を負わせた側の従業員にあり、それまでにも何度か他の従業員と諍いを起こした
り、上司の指示・命令に従わないことも度々あるなどの問題社員です。これを機に諭旨
退職か、それに従わないときは懲戒解雇も考えているのですが、当社は10人未満の企業
のため就業規則を定めていません。それでも懲戒解雇は可能でしょうか。
A 企業が懲戒処分を行うとき、いつでも自由にできるかというとそうではなく、「客
観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、懲戒
権の濫用として無効となる」とした判例が存在します。
また懲戒処分の有効要件として有力な学説では@罪刑法定主義類似の諸原則A平等扱い
の原則B相当性の原則C適性手続きの原則が満たされている必要があるとしています。
@罪刑法定主義類似の諸原則
就業規則に懲戒規程(懲戒事由と手段)が記載されていること。
A平等扱いの原則
特別な理由もなく人により処分に差をつけるようなことをしてはならない。
B相当性の原則
違反行為と処分とのバランスが取れていること。
C適性手続きの原則
本人に弁明の機会を与えない、証拠不十分のままの処分、その他就業規則に定めた手
続きを経ないままの処分などをしてはならない。
裏返せば、就業規則の懲戒規程に記載がない事由についての処分、軽い違反行為に対
して懲戒解雇などの重い処分をおこなったときなどは懲戒権の濫用として無効になる可
制裁は高いと思われます。制裁は、あくまでも企業秩序維持を維持していくための手段
であって、制裁を加えることが目的ではないのです。
御社のケースでは就業規則そのものが存在せず、それに変わる社内ルールを定めたも
のもないとすれば、軽い怪我を負わせたことをもって懲戒解雇することは難しいかと思
われます。但し怪我を負った従業員本人が小額訴訟や刑事告訴することはできますし、
懲戒とは別に人事権の行使としての配置換えをすることも企業秩序維持の必要性から有
効となる可能性はあります。また、退職勧奨をされても良いでしょう。
もし労働者の行為が悪質で、雇い続けることができないのであれば、不当解雇として
訴えられることを覚悟した上で、敢えて解雇(普通解雇)することも選択肢の一つかも
しれません。(お勧めするわけではありませんが、仮に裁判に負けても、会社が正しい
と信じたことを貫く覚悟があるならば、そういう選択肢もあるということです。)
御社の場合、まず企業秩序の維持を図るために、早急に就業規則を定めることです。
そして、今後はその規則に基づいて適正な運用を行ってください。
⇒経歴詐称
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