表彰・制裁Q&A−経歴詐称−
Q 先日、ある従業員が経歴を偽って入社したことが判明し、対応に苦慮しています。
就業規則に重大な経歴詐称の場合は懲戒解雇に処するとしているのですが、この重大な
経歴詐称とは何を指すのかと当該従業員から指摘されています。当社は全員高卒以下で
あり、募集広告も高卒以下としていたのですが、この者は大学を卒業しているのです。
何かいいアドバイスがあればお願いします。
A 経歴詐称は労働契約を締結するときに学歴や職歴、犯罪暦、年齢などを偽って、あ
るいは隠すことをいいます。この経歴詐称を理由として懲戒解雇を有効とするか無効と
するか、判例では「真実を告示していたなら採用しなかったと思われる重大な経歴詐称
かどうか、企業秩序維持を困難にさせる可能性があるかどうか、採用決定の判断におい
て労働力の評価を誤らせたかどうか、就業規則に定めがあるか」といったことなどを重
視しているようです。
また、炭研精工事件 1990年02月27日東京地では、使用者が雇用契約の締結に先立ち、
雇用しようとする労働者の労働力評価に直接関わる事項だけでなく、企業あるいは職場
への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項について、
必要かつ合理的な範囲内で申告を求めたときは、労働者は信義則上、事実を告知すべき
義務を負うとし、最高裁もこれを支持しています。
御社の場合、全従業員が高卒以下でありそれが企業の秩序維持に重要な役割を持ってい
ると考えられる場合、また大卒であることを知っていたら採用しなかったことが明白で
ある場合は、懲戒解雇を認められる可能性は高いと思われますが、過去の判例を元に慎
重な対応をお願いします。以下にいくつか判例を挙げておきますのでご参照ください。
山口観光事件 1995年06月28日大阪地
年齢を理由とする経歴詐称が、職種がマッサージであることに鑑み、労働者の雇用計画や原告の労働能力に対する評価を誤らせ、被告が、その従業員の労働力を適切に組織することを妨げるなど被告の経営について支障を生じさせるおそれが少なくなく、原告が真実の年齢を申告したとすれば、被告が原告を採用しない可能性が多分にあり懲戒解雇事由に該当し、権利濫用に当たらないとされた事例
正興産業事件 1994年11月10日浦和地川越支
自動車教習所において指導員としては高度の技術・知識・人格等を要求され、かつ、指導員は教習生及び経営者や幹部職員と善良な人間的な信頼関係を保持する必要があることを考慮すると、指導員の学歴もその職務についての適格性及び資質等を判断するうえで、重大な要素の一つであると認められ、債権者が高校中途退学者であることが雇用時に判明していたならば、少なくとも債務者は債権者を指導員見習として雇用せず、また、その後に指導員としての職務に配置しなかったと認められるから、債権者が学歴を偽って債務者に雇用されて、指導員としての職務に従事した行為は、重大な背信行為として就業規則六二条一号所定の「履歴書の記載事項を詐って採用されたことが判明したとき。」に該当して懲戒解雇の事由になるとした事例
三愛作業事件 1980年08月06日名古屋地
最終学歴が大学中退であるにも拘らず、高校卒と申述したことは重要なる経歴を偽ったことに該当し、それが低位への詐称であるからといって「詐称」に当らないということはできないとしながらも、職種が港湾作業という肉体労働であって学歴は二次的な位置づけであること、大学中退を高校卒としたものであって詐称の程度もさほど大きいとはいえないこと等を総合すれば、本件学歴詐称のみを理由に一旦採用された者を解雇するのは著しく妥当を欠き、解雇権の濫用であると判断される。とした事例。※なお、この件に関して採用条件で学歴不問としていたことも学歴詐称が重大な経歴詐称ではないと判断された要因となっています。
西日本アルミニウム工業事件 1980年01月17日福岡高でも、現場作業員として高校卒以下の学歴の者を採用する方針をとっていたものの募集広告に当って学歴に関する採用条件を明示せず、採用のための面接の際被控訴人に対し学歴について尋ねることなく、また、別途調査するということもなかった。として経歴詐称による懲戒解雇を無効としています。また、この事件では裁判中に当該労働者が入社5年前に起こした犯罪の有罪が確定しており、それについて行われた予備的解雇については認めています。
⇒遅刻3回で1欠勤の是非
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